恋の指導は業務のあとに

急激にわいた焦燥感に突き動かされ、クローゼットやチェストの引き出しを片っ端から開けて確認する。

少し水に濡れているものもあれば、無事なものもある。

旅行用のトランクが無事だったことを幸いに、これ以上被害が広がらないよう濡れていないものを素早く救出して押し込んだ。

急いでるから濡れたものはそのままにして、とにかく明日必要なものを入れていった。

引っ越してきたばかりで、荷物が少なめなことだけが救いだ。


3階の部屋で水害にあうなんて、こんなの誰が予想出来るだろうか。

天井の上にあるであろう上階の部屋を睨みつける。

今すぐ苦情を言いに行かなければ!


トランクや買い物袋を放置するわけにもいかず、両手一杯に荷物を持って階段を上がる。

私の部屋は角なので、4階も角の部屋を目指す。


「えーっと、405。ここだ」


インターホンを鳴らしてみるけれど全く応答がない。

まさか留守なのだろうか。

そんなの非常に困る。

水を出しっぱなしで出掛けるなんて、非常識にも程がある。

だからきっと居るはずなのだ。


「すいませーん!いませんかー!!」


ドアをコンコン叩きながらインターホンを何度も押す。

近所迷惑なのは百も承知だけれど、寝ているならば起きてもらわなければならないのだ。


「すいませーん!いませんかー!!」


なりふり構わず必死にドンドン叩きつづけて手が痛くなった頃、ドアが不意に動いた。


「・・・あ」

「何だ!うるせえな!迷惑だろーが!」


怒りモード満載の形相で部屋の主が出て来た。

若い男性で背が高く、鋭い目で上からジロリと睨まれて威圧感が半端ない。

けど、ここで怯むわけにはいかないのだ。

怒ってるのはこっちなんだから!!

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