恋の指導は業務のあとに

牧田さんの連続ハート攻撃が羽生さんを直撃するも、眉毛一本も動かさない。


「俺と一緒ではつまらないでしょう。仕事が詰まっていますので、失礼します」


営業的に言い置いて去っていく羽生さんを見て、口を尖らせた牧田さんが私をジロッと睨んだ。


「何見てんのよ。さっさと仕事しなさいよ」


ツンとした口調で私にそう言うと、「お手洗いに行ってくるからヨロシク」と琴美にひらりと手を振って、受付カウンターから出た。

私の傍を通りざまに、サボってんじゃないわよ!と睨んでいく。

・・・怖い人だ。


「ごめんね、若葉」

「やだ、琴美が謝ることじゃないから。私は平気だよ」


眉を下げてすまなそうにする琴美に笑顔を向けると、安心したようで笑顔になった。

牧田さんのような先輩がペアだと、琴美は大変なんじゃないだろうか。

寿退社していった子はほんわか癒し系で、牧田さんのイヤミ攻撃も柳に風のようだったと琴美に聞いたけれど。

今度ゆっくり愚痴を聞いてあげよう。


「若葉にLINEするね。社員旅行のこととか話したいし」

「うん、わかった。待ってるね。あ、私早く戻らなくちゃ。また羽生さんに叱られちゃう」


ついでに牧田さんにも。

彼女が戻って来ないうちに、そそくさと階段を上がった。


社員旅行か。そういえばそんなのあったっけ。

羽生さんの指導についていくのが手いっぱいで、すっかり忘れていた。

いつ行くのだろう。

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