婚約者はホスト!?④~守りたいもの~(番外編あり)
愛しい君と

仕事に復帰して一ヶ月半…。

私に嫌がらせをしていた室長は地方へと左遷され、ブライダル室は元の明るい雰囲気を取り戻していた。

私も心機一転、新しい室長のもとで頑張っている…つもりなのだけど…

「瀬崎さん あとは、私がやっておきますから、どうかもう上がって下さい。旦那さんが心配しちゃうじゃないですか… ねっ 瀬崎さん…」

そう言って、私から仕事を取り上げるのは、新しく着任した古﨑室長だ。

「あ いえ 大丈夫です。ちゃんと主人には遅くなるって連絡入れてありますので… 毎回、古﨑室長にやって頂く訳には…」

「いえいえ 私が瀬崎さんに早く帰って頂きたいんですよ。ホントにお願いします もう 上がって下さい!」

「いやいや そんな…」

「お願いします。私には大切な家族がいるんです… 私の為を思うなら、どうか 瀬崎さんは旦那さんの元へ早くお帰りになって下さい!」

「いや あの… 古﨑室長…」

定時を過ぎて残業しようとすれば、私は毎回こんな感じでブライダル室を追い出されてしまうのだ。

古﨑室長は、前の室長を左遷へと追いやった圭司の存在が、よっぽど恐いようで…

とにかく、私に物凄く気を使ってくるのだ。
正直ここまでされると、やりにくくて仕方がない。

どうしたものかとため息を漏らしながら、更衣室の前まで来ると…

「瀬崎さん お疲れさまでーす!」

ちょうど着替えを済ませた三年目の後輩が、ドアから出てきたところだった。

「お疲れさま 恵梨香ちゃん、もしかして、今日は合コン?」

気合いの入った彼女のメイクと服装を見て、何となくピンときた。

「あっ バレちゃいました~? そうなんですぅ 今日は桜商事の人達と合コンなんです!」

「そっか~ いい人見つかるといいね。」

「はい 今日こそ、私 イケメンの彼氏ゲットしてきますから! それでは、友達待たせてるので、お先に失礼しまーす。」

彼女は陽気に笑いながら、更衣室を出て行った。

たった二つくらいしか年も変わらないのに、すごくキラキラして見える。

鏡に映る自分を見て、思わずため息が漏れた。
圭司に愛されていることに胡座をかいて、女を怠っていたらダメだよね…。
これじゃ、どんどん老け込んでしまう…。

せめてもとハンドクリームを手に塗っていると、バックの中でラインの着信音が鳴った。

『お疲れさま。仕事で近くまで来たから、下のラウンジで待ってる。残業が終わったらおいで…。』

あ 圭司、来てくれたんだ。
私は急いで着替えを済ませ、ラウンジへと下りた。
  
「お待たせ 圭司…」

コーヒーを飲みながら、携帯を見ていた圭司に声をかけた。

「あれ? 早かったね もう 仕事いいの?」

顔を上げた圭司が、そう尋ねた。

「あっ うん 室長が代わってくれたから… なんだか圭司のことがよっぽど恐いみたいで、すごく私に気を使ってくるの…」

私は困ったようにそう言った。

「ふーん でも、なつはお人好しだから、それくらいでちょうど良いんじゃない?」

「そんなことないよ… 人に仕事押し付けて帰るなんて、気が引けて落ち着かない…」

「いいじゃん 今までは散々、仕事押し付けられてたんだから…」

「でも、今の室長は関係ないし…」

「ホント、なつはそういうとこ優等生だね。もっとズルくなればいいのに…って、まあ それがなつの良いとこだけどね。まあ 今日の分は、明日の仕事で返せばいいじゃん…」

圭司はクスリと笑いながら、席を立った。












< 122 / 140 >

この作品をシェア

pagetop