好きだと言って。[短篇]
"哲平の1番好きなものって何?"
"…知らね。"
"ねぇってば!"
"2番目は、ハンバーグ。"
機嫌がよかったとき、答えてくれた質問。思い出して自然に口元が緩む。ハンバーグって…顔に似合わず子供っぽいな。
しかも2番目。
1番って聞いたのにね。
ゆっくりと一歩一歩確実に自分の家へと足を進める。考えないとか言っちゃって結局頭の中は哲平で一杯だった。
もう、会うこともない貴方で。
「あ、お母さん?今から帰るから。」
『はいはい。気をつけてね。』
今回は忘れずに電話を入れる。
またお兄ちゃんに怒られたら溜まったもんじゃないもの。
薄暗い街頭があたりを照らす。
空には無数の星。
電話を切ると私は携帯の電源を落とした。
普通なら15分で付くところを今日は何故か30分も掛かってしまった。少し先に見えた我が家は電気が付いていて、明るさを帯びていた。
「やっと着いた。」
途中、哲平のマンションが大きく顔を覗かせていたけれど、涙を堪えて通り過ぎてきた。もう2人の姿はなかった。
ゆっくりだった歩調が少し早まる。
「早く帰ろう。」