それだけが、たったひとつの願い
 その日、マンションに帰ると会いたかった人が来ていて、いつものようにリビングのソファーに座っていた。
 顔を見るのは三日ぶりだけれど、ジンがここにいる光景が当たり前になっていて、まるでルームシェアをしているような感覚に陥る。
 部屋で着替えを済ませてリビングに戻ると、ジンはなぜかぼんやりとしていた。

「なにかあったの?」

 そう声をかけたくなるほど、なんだか今日のジンはいつもより元気がない。
 私のほうへ視線を向けて力なく笑った彼を見て、予感は当たったのだと確信した。

「ちょっとね。やっちゃったんだ、喧嘩」

「喧嘩? もしかしてショウさんと?」

 小さいころから今まで喧嘩はしてこなかったと言っていたけれど、初めてそういう状況になったのだろうか。
 もちろん殴り合いの喧嘩ではなさそうだが、口喧嘩だとしてもジンにとってはかなりのダメージかもしれない。
 そんなふうに思考を巡らせていると、意外な言葉が返って来て私は唖然としてしまう。

「ショウくんとじゃない。……記者の人」

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