それだけが、たったひとつの願い
 メキメキと音を立てて嫌な予感がした。

「どういうこと?」

 詳しい状況は私にはわからないが、どうやら例のスキャンダル記事の件で記者の人に囲まれてしまい、あまりにもしつこかったために咄嗟に言い返してしまったらしい。
 そのことでまたショウさんに咎められたのだそう。
 しかしあの記事が出てからもう二ヶ月も経っているというのに、未だに追いかけまわされるとは思わなかった。

「ショウくんは記者を無視しろって。事実じゃないおかしな記事を書かれて、さらには追いかけまわされて、なんで言い返せないのか俺には意味がわからない」

 ソファーの背もたれに頭を乗せて天を仰ぐジンを見ていると、すごく気の毒になった。
 こちらも人間なのだからしつこくされたら腹が立って当たり前なのに。

 だけどショウさんからすると、熱愛否定は事務所側から発信しているので本人からはもうなにも言うな、とのことらしい。

 かける言葉が見つからずにジンの隣にポスンと座ると、彼がゆっくりと体を起こして私に抱き着いた。

「ちょ、ちょっと」

「由依……」

 ハグをされている状態だから顔は見えないけれど、彼の声がやけに切なく耳に響く。

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