エリートな先輩の愛情を独り占め!?

……お願いだから、これ以上掻き乱さないでください、先輩。
私今本当にいっぱいいっぱいなんですよ。
竣介に裏切られたことも、八谷先輩へのこの危険な感情も、八谷先輩の彼女に対する罪悪感も、全てが心のバランスを崩していく。

もう、結構本当に、いっぱいいっぱいなんですよ。

「……じゃあ、どうしたらいい。お前を裏切った彼氏へのこの怒りは、どうしたらいいんだよ」
八谷先輩が、振り絞った声でそう問いかけた。私の手を握る力がより一層強くなるのと同時に、私以上に先輩の手は震え始めた。
「俺は、お前のために怒ることも許されないのか……」
八谷先輩のこんなに苦しそうな顔、今まで見たことがない。
冷たい冬の風がまた川面を撫でて、先輩のサラサラとした髪を夜空に流した。
その様子に、一瞬息もつけないほどどきっとしてしまった。

そして初めて、八谷先輩に彼女がいることを切なく思った。
今までの私は、八谷先輩に彼女がいることが安定剤だった。なにかのストッパーのように捉えていた。そうしないと、なにか危険な感情が芽生えてしまいそうだったから。

「……せ、先輩は私を、どうしたいんですか……っ」
なんだか勝手に追い詰められた気持ちになって、私は一番してはいけない質問をしてしまった。
「落ち込んでる時に優しい言葉かけてくれるし、泣いてる時はこうやって駆けつけてくれるし、き、キスだってした……こんなの、誰だって混乱しますっ……」
まったく余裕のない責め方をしていると、話しながら思ったけれど、それでも止められなかった。
「タマ、俺はっ……」
八谷先輩は、なにかすぐに言おうとしたけれど、それを言うことをぐっと抑えるように唇を噛み締めてから俯いた。
「……ごめん」
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