カリスマ社長に求婚されました
「えっ⁉︎ そ、そんな悪いです! 気になさらないでください」

迷惑をかけた挙句、怪我の手当てをさせるなんて申し訳ない。

こんなことなら、丈の短いワンピースにするんじゃなかったと、今さら後悔してしまった。

結局、和也には最悪なフラれ方をするし、見ず知らずの人には気を遣わせるしで、ロクなことがない。

だけどその男性は、「いや、血も出ているし、応急処置として縛っておこう」とスーツの胸ポケットからハンカチを取り出した。

「で、でも……」

それは見るからに高級な濃紺のハンカチで、予想通り中央の下部分に有名ブランドのロゴが入っている。

戸惑う私におかまない無しに、その人は膝まずつくと手際よく私の膝にハンカチを巻いた。

かなり器用な人なのか、結び方がとてもキレイだ。

それに風に乗ってふわりと、甘い香りが漂ってくる。

それはハンカチからなのか、それともこの人からなのか分からないけど、とてもいい香りだ。

とにかく、ほんの数分のやり取りだけでも、この男性の品の良さと優しさが垣間見えた。

「これで、ひとまず大丈夫。あとは、きちんと消毒をしないとな」

「本当にありがとうございました。ご迷惑をかけた挙句、こんなことまでしていただいて……」

立ち上がった彼に向かって、もう一度お礼とお詫びをする。

ひざまづいてまで手当をしてくれたその気持ちが、今の私には温かく心にしみた。
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