ビタージャムメモリ
終わった…のかな。

5年越しの恋…だったのかな。

こういうのって案外、名前のつけようがない。



「いたいた、おーい、弓生」



そこに、歩くんの声がした。

振り向くと、コートに袖を通しながら走ってくるのが見える。

ふと私の奥に視線を投げ、先生の背中を認めたらしく、そばに来るなり不満げに口を尖らせた。



「巧兄、帰っちまったの? 気が利かねーなあ、弓生を夕食に誘うくらいすりゃいーのに」



私の頭をくしゃりとなでて、明るく笑う。



「どうだった、楽しめた?」



ぼんやりと立ちすくむ私の手元を見て、わーと歓声を上げた。



「何これ、作ってきてくれたんだ? サンキュー、チビたちがすげえ喜ぶよ、無計画に持ち寄りしたら、お菓子が足りねえって事態になってて…うわ!」



たまらず抱きついた。

喉の奥に熱い固まりがつっかえたようになって、喋れなかった。

歩くんは最初硬直していたものの、やがて、「どーした?」と心配そうに髪をなでてくれる。

その時、彼が首に巻いているものに気がついた。



「このマフラー…」

「あ、これ? 巧兄の部屋にあったの、奪ってきたの」



いーだろ、と無邪気に笑う。



「でも巧兄って、俺が勝手に何か取ってってもいつもスルーなんだけどさあ、これはなんか、返せってうるさくて」



グレーのマフラーは、シックな装いの歩くんによく似合っていた。

手触りを楽しむように顔を埋めて、歩くんは首をかしげる。



「大事なもんなんかな? 汚さずに返さねーと…うわっ、おい」



突然涙があふれてきて、止まらなくなった。

歩くんはぎょっとした顔で、慌てた声を出す。



「なんだ、どーした」

「せ、先生にね…振られたの」

「はっ!?」

「さっき…」


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