ビタージャムメモリ
それは…結婚とかってことだろうか。

じっと見上げる私に、先生は生真面目に説明を続ける。



「だから、決して香野さんがどうというのではなく、相手が誰であろうと、僕には応える意思がない。気持ちはとても嬉しい、ありがとう」

「先生…」

「でも、ごめん」



私は、こんな丁寧な返答をもらえると思っていなかったので戸惑って、それから内容にも、戸惑った。

申し訳なさそうに顔を曇らせる先生に、何か言わなきゃと思うんだけど、これという言葉が出てこない。

困って、バッグを握りしめた。



「こういうことを聞きたいんじゃないよね」

「はい…」



思わず正直に認めてしまった。

誰であっても、つきあうことはしない。

それは安心というか、心の一部は確かに、穏やかになるんだけど。

なるんだけど…。



「ごめんね」

「いえ…」



身じろぎすると、手元の荷物がかさりと鳴った。

そうだ。



「あの、これ、どうぞ」



私は作ってきていたクリスマスクッキーを差し出した。

持ち寄りパーティとあったので、もしかして置いてもらえたらと思い、小分けにして袋に入れてきていたのだ。

先生は受け取ると、しげしげとそれを眺めた。



「ありがとう、凝ってるね」

「前のは、食べていただけなかったと聞いたので…ただの女子力アピールです」

「なるほど」



おかしそうに笑ってくれたので、少しほっとした。



「メリークリスマス…です」

「香野さんも、いいクリスマスを」



にこりと微笑んで、先生は駅の方へ歩いていった。

夜気に散る自分の白い息越しに、それを見つめた。

< 113 / 223 >

この作品をシェア

pagetop