ビタージャムメモリ
世も末、と思わずぼやきが漏れてしまう。



「もうすぐ18だし」

「変わらないって、え、もうすぐっていつ?」

「来週」

「来週のいつ?」



私の食いつきに、歩くんが不審そうな顔をした。



「29日」

「一日違いだ!」

「何が?」

「30日なの、私」



彼はちょっとぽかんとしてから、マジで、と笑った。



「いいことないよな、年末生まれ」

「慌ただしくて、よく忘れられるよね」

「学校も絶対休みだし」

「プレゼントはクリスマスと一緒にされちゃうし」

「最悪、お年玉とも合体するよな」



わかる! とひとしきり盛り上がり、歩くんが屈託なく笑っているのを見て、私は安心した。



「先生から、いつも何もらうの?」

「うーん、最近は、うまいもん食わせてもらったり、コンサートのチケット買ってもらったり、一緒に買い物したり」



これも去年買ってもらった、と着ているシャツを指さす。

仲よしだなあ。

これは、早く歩くんを返してあげないと、先生も相当寂しい思いをするに違いない。



「巧兄、ちゃんと食ってるかなあ」



歩くんも似たようなことを考えたのか、ぽつんとそんなことを口にした。



お風呂から上がると、歩くんはイヤホンを耳に挿して、テーブルに広げた楽譜のコピーに何か書き込んでいた。

私が近寄っても気づかない。

その真剣な横顔をしばらく眺めてから、隣にそっと腰を下ろした。

それでも歩くんは気づく様子を見せず、やがてふと楽譜の一枚をこちらによけようとした時、手が私にぶつかって、うわっと声をあげた。



「びっくりした!」

「すごい集中力だね、これ、今度弾く曲?」

「うん、ずっとやりたいなあと思ってて、伴奏の人とさ、合わせる約束してんの」


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