ビタージャムメモリ
だけどそれを携帯に登録しているうち、先生がいつも以上に言葉少なだったように思えて、ふと気になった。

元からクールなので、変わりないと言えば変わりないんだけど。


先生も、可愛がっていた歩くんとのこの顛末に、心を痛めていないわけはない。

やっぱり電話をすればよかったと、今さら悔いた。




「お帰り、メシできてるよ」



帰ると、食事の温かい匂いとそんな声に迎えられた。

…まずい。

この生活、ハマったら私のほうが抜け出せないかもしれない。



「荷物取ってこられた?」

「うん、弓生の会社って、冬休みいつから?」



私がコートを脱ぐ間に、歩くんが手早く食卓を整えてくれる。

チキンのソテーにミネストローネ、綺麗なサラダ。

なんだこの子、恐ろしい。



「私のとこは来週月曜行けば終わりなんだけど…ちょっと待って」



バッグを探り、手帳に挟んである全社カレンダーを取り出す。

本社と他の事業所は、工場がある関係で、カレンダーが違うのだ。



「先生のところは、火曜日も出だね、その代わり年明けの休みも一日長いみたい」

「ふうん」

「すっごいおいしそう…クリスマスだからチキン?」

「気分だけでもさ。どうせ巧兄は使わないから、帰ったついでに家にあった食材も持ってきた」



かつて我が家のテーブルの上が、こんなに彩り豊かになったことがあるだろうか。

いただきます、と言う間も惜しいくらいお腹が減っていた私は、見た目を裏切らないおいしさに感激しながら、お鍋一杯を空にした。



「お料理は歩くんの担当なの?」

「担当っていうか、俺は好きだからやっちゃう。巧兄もできるけど、やらずに済むならやらないっていう、まあ一般的な男のスタンスだよな」

「歩くん、変な女の人についてっちゃダメだよ」



絶対飼われちゃうよ、こんな子。

食後に作ってくれたココアを飲みながら、しみじみ忠告すると、バカにしたように鼻を鳴らされる。



「女になんか、わざわざこんなことしてやらねーよ、食わせたいと思うから作るんじゃん、こういうのは」

「女の人には、思わないの?」

「思うかよ、むしろ奉仕させてやってなんぼだろ」

「これが17歳の男の子の発言かと思うと…」


< 139 / 223 >

この作品をシェア

pagetop