ビタージャムメモリ
これは冷蔵、こっちは冷凍、とプラスチック製のストッカーをバッグから移し替えている最中に、玄関の方で物音がした。

ぎくっと手が止まる。

鍵を開ける音、というか、開けようとしたらすでに開いていたのであれっとなっている感じの音がした。


まさか、先生?

早くない?

うわ、どうしよう、どうしよう。

おたおたするうち、他の部屋を確かめていた気配が近づいてきて、ついにリビングのドアが開く。



「歩?」



暗い室内を見回してから、先生の目がこちらを向いた。

冷蔵庫内の明かりに照らされて、小さくなっている私は、さぞ間抜けに映っていることだろう。

先生は言葉をなくしている。



「…ええと?」

「あの、すみません、私、歩くんからいろいろ預かってきて、こ、こちらに入れさせていただいたので、後で召し上がってください」



とりあえず詰め込んだ冷蔵庫を示し、周辺をあたふたと片づけていると、先生がこちらに足を向けた。

冷蔵庫の前まで来ると、中を確かめ、おかずのひとつを開ける。

何も言わないので、私は所在がなくなってしまった。



「…あの」

「歩は、迷惑をかけてない?」



ストッカーを冷蔵庫に戻しながら、先生が微笑んだ。

私は、いいえと首を振る。



「まったく。むしろいてくれて心強いくらいです」

「甘ったれだから、気に障ることがあったら追い出してね」

「すごくちゃんとしてますよ」



ほんと? と先生が疑わしげに笑った。



「本当ですよ、あっ、何か食べるもの、ご用意しましょうか」

「いや、軽く食べてきたからいいよ、ありがとう」

「早かったですね、先生のところは納会じゃなかったんですか?」



先生はリビングに戻ると、部屋の隅のスタンドライトをつけて、背広とコートをソファの背に放った。

柔らかいオレンジ色の光が、暗かった部屋をぼんやり満たす。

続いてサイドボードから何か取り出すと、深い息をつきながらソファに身を沈めた。


明らかに疲れてる。

お邪魔になる前に帰らないと。

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