ビタージャムメモリ
* * *
「ええと、ここが第三技術棟で…」
さらに翌日、私は建物内で迷子になっていた。
部長のお使いで、開発部門のある事業所まで外出してきて、不慣れなもので帰り道がさっぱりわからなくなったのだ。
この事業所内は建物が多く、工場もあるから敷地も広い。
そして長年の間に増設や建て直しをくり返したため、建物が番号順に並んでいなかったり、通路も複雑だったりと、地図を見てもわけがわからない。
外の通りに通じる門も無数にあって、不用意に入ってきてしまった私は、自分がどの門から出ればいいのかすら覚えていない。
もうダメだ、恥を忍んで誰かに聞こう。
「あれっ、香野さん?」
「えっ…」
突然、知っている声が聞こえてきた。
階段を下りてくる数名の人影が、こちらを見ている。
プロジェクトメンバーの、先生を除く四名だった。
「みなさん!」
「びっくりした、何してるんですか、こんなところで?」
尋ねつつも、見当はついているんだろう。
柏さんがおかしそうに笑いながら、出口ですか? と私の背後の方向を指さした。
「電車だよね? なら北門が駅の最寄りだから、あっちの方向を目指すと案内が見えるよ」
「ありがとうございます! あっハガキ、できたらすぐにお送りします、素敵な写真ありがとうございました」
「楽しみにしてるよー」
助かった!
頭を下げて、示された方向を目指すべく廊下を進みかけた時、突然横から伸びてきた手に腕をつかまれ、脇に引っ張り込まれた。
「きゃっ!」
「何してるの」
廊下のくぼみに作られた、自動販売機のスペース。
転びかけた私を受け止めたのは、またしても知っている顔だった。
「先生…!」
「珍しいね、こっちに用事?」
「はい、商品サンプルを返却しに来たら、迷ってしまって、あっでも柏さんが出口を教えてくださったので、もう大丈夫です」