ビタージャムメモリ
「勘違いなども、していないつもりですし、なぜかというと、懐疑的とおっしゃっていたのを忘れていないからで、ええっと」
ですので、と我ながらそわそわと落ち着きなく訴える。
「その、安心していただけたらなと…」
別に返事を迫ったりもしないし。
どう扱われても、恨んだりしないし。
期待や願望は、それなりに持ってるけど、そんなのは無視してもらっていいし。
だから。
だから…。
先生は足を止めて、黙って聞いている。
やがて沈黙に耐えられくなり、顔を上げると、穏やかに微笑んだ先生が口を開いた。
「うん、ありがとう」
含みのない声音だった。
安心してくださいと言ったから、そうするよ、というお礼の返事が来た、それだけのこと。
「いえ…」
「食べたいもの、決まった?」
曖昧に首を振るので精一杯。
先生はうなずいて、また歩き出した。
そんなこと、気にしなくていいよって、言ってほしかった。
私、バカだ。
してるじゃない、勘違い。
バカだ。
その時、先生のポケットで携帯が震えた。
はい、と出た先生が、顔をしかめてこちらを振り返る。
えっ?
「何かありましたか」
小声で尋ねると、向こうに伝わらないよう携帯を少し離して、先生がため息と共につぶやいた。
「──姉だ」
梶井孝彦(たかひこ)、と書かれた名刺を眺めた。
ご本人は40代半ばくらいの、健康そうに焼けた肌をした、人懐こい微笑を絶やさない人だった。
堅すぎないジャケットを、真っ白なシャツの上に羽織っている。
背が高くて、控えめに言っても二枚目だ。
「申し訳ない、突然お邪魔して」
「いえ、こちらこそ、姉の暴挙につきあわせて申し訳ありません」