ビタージャムメモリ
「もしかしてすき焼き? 俺も食いたい」
「それなんだがなあ、お前、今いくら持ってる?」
「え?」
車の屋根に片腕を預けて、先生がそんなことを言い出した。
助手席のドアを開けながら、何事かと見守る。
まさか歩くんにだけ自腹を切らせる気じゃ…。
「いくらって…巧兄にもらってる分だけだよ、3千円くらい」
「そうか」
先生は後ろポケットから財布を取り出し、無造作に一万円札と数枚の千円札を抜き取ると、歩くんに押しつけた。
「これやるから、自力で帰れ」
「はっ?」
「大丈夫だ、このSAは歩いて一般道に出られる」
「おい、巧兄」
お札を持ってぽかんとする歩くんを外に残し、素早く車に乗り込むと、私が乗っているのを確認して車を出す。
えっ。
本線に戻る車の列に合流しながら窓を開け、背後に声をかけた。
「いい天気でよかったな」
何が起こったのか理解した頃には、もう高速道路の上にいた。
ふざけんなー! という歩くんの断末魔が、ここまで聞こえてくる気がする。
「せ、先生…」
「大丈夫だよ、あいつは一人で遠出するのも好きだから、渡した金額めいっぱい使って、遊んで帰ってくるよ」
いや、それにしたって…。
あまりの強硬手段に言葉が出ない。
そんな私を、ちらっと先生が見た。
「歩がいたほうがよかった?」
「そういう、わけでは…」
「俺が気になってるのはね」
続きを遮ったのは、振動音だった。
バッグから携帯を出して、画面の表示に目を疑う。
「先生、これ」
急いで見せると、目だけで確認した先生も、二度見した。
発信元は、【巧先生】だった。