ビタージャムメモリ
「これやるから許せよ」
歩くんはいかにもご機嫌取りに、ソフトクリームを差し出した。
プラスチックのスプーンを、反抗的な気分で見つめる。
もらうけど、このくらいじゃ許さないよ。
「…おいしいね」
「だろ」
冷えた口の中を甘酒で和らげようとして、歯が割れそうになる。
仕方ないので湯気だけでもと唇を温めていると、またひとさじ口元に差し出され、食べた。
おいしいけど、やっぱり夏のほうがなんて思っていたら、先生と目が合って、はっとした。
しまった。
あの、何度も言いますが、私、歩くんとは、なんでも…。
「見ろよ、巧兄が妬いてるぜ」
「え?」
いきなり、歩くんにぐいと肩を抱き寄せられた。
言われた先生本人も、え? という顔になっている。
歩くんはそれを見ると満足げに笑んで、ぽいと私を放り出し、空になった紙コップふたつを重ねて席を立った。
「涼しい顔しといて、案外、縄張り意識強いとこあるんだよなー」
通り過ぎざま、からかうように先生の肩を叩いていく。
先生は終始無言で、じっと頬杖をついて考え込んでいた。
「で、どこ行くつもりなの?」
車に戻りながら、歩くんが尋ねた。
先生がドアノブに手をかけると、ピッと音がしてロックが解ける。
「最終的には、伊香保」
「温泉街かよ、エロ!」
「お前と一緒にするな。目的は食事だ」
私も初めて行き先を知った。
ぶらぶら北上しながら、気を引かれるところがあれば寄ろう、なんて話をしていただけだったのだ。