ビタージャムメモリ
言った瞬間、口がすべったと思った。

これは10倍になって返ってくる、と一瞬で覚悟を固めたんだけど、なぜかそういうものは訪れず。

代わりに歩くんは、目をまん丸に開いて、絶句していた。



「…バ」



言いたいことがありすぎて言葉にならないみたいに、口を動かしてはやめて、なんとその顔は、だんだん赤くなってくる。

…え。

私のほうも言葉を失った。



「…ッカじゃねえの、誰が…」

「え、歩くん…?」



私をにらんでいた目が、あちこちをさまよいはじめ、ついに彼は、いきなり席を立った。



「帰る」

「ちょ、ちょっと、歩くん」

「うっせー、借りた分は返したし、もうお前の味方もしねー。あとはひとりでやれ」

「ひとりでって」



横を通り過ぎようとした手をつかんで引き止めると、乱暴に振り払われる。

忌々しげな視線が私を見下ろした。



「巧兄の誤解は、解いてやらねえ。むしろ俺は、お前のことが大好きだって吹き込んでやるよ、今お前が言ったみたいにな!」

「え…」



私が蒼ざめたのがわかったのか、歩くんの調子が戻ってくる。

彼はにやりと笑うと、さっきのお返しのように指を突きつけてきた。



「巧兄は俺に甘いからな。俺がそう言ってる限り、お前は今後、絶対に巧兄から女として意識されない。絶対に、だ」

「そんな!」

「嫌なら自力でなんとかするんだな、じゃーな…あ、いや」



そーだ、と宙を見つめながらつぶやいて、さもいい思いつきを得たかのように、ご満悦な笑みを浮かべて、私を見る。

私はびくりと怯えた。



「やめた、今日はお前とデートだ」

「はっ!?」

「そんで帰ってから、巧兄に報告してやる。ふたりで一日たっぷり遊びました、楽しかったですってな、写真つきで」

「や…やめてよ!」

「じゃあ帰れ、17歳で甘えたがりの俺を置いて」


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