うそつきハムスターの恋人
店舗開発部は十二階だ。
エレベーターを待つより、階段を使ったほうが断然早い。

このメール便……いつからあった?
昨日?おとつい?そのもっと前からかもしれない。

めったに使われない階段はひんやりとしていて、カンカンカンカン、と私の鳴らすヒールの音がやけに響く。
こんなことになるなら、今日はぺたんこ靴を履いてくればよかった。
足元を見ていないと、踏み外しそう。

上下の矢印が十一階と十二階を示す踊り場まで、あと一段という時だった。

「おわっ!」

突然、男の人の焦ったような声が聞こえたと同時に、顔にぼふっと柔らかい衝撃を感じた。

ヒールを履いた足がふらつく。
踏み留まろうとした右足が、地面を探して空中をさ迷う。

グラリ。
体が傾いた。

やばい!落ちる!

本能的にそう思った。
手すりを掴もうとしたけど、右手には大切な壇内さん、改め奥田部長のメール便があって。
これだけはなにがあっても離せない。

結果、私はそのまま階段を半フロア分、転げ落ちた。
ただし、さっきぶつかった相手に抱きしめられたまま。




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