嘘から始まる恋だった
「なるほどね…それで?」
部長は、狭い部屋の壁に寄りかかり、私と距離をとって片膝をついて話を聞き始めた。
「就職先を紹介してもらった手前、義父から家族で過ごしたいと言われると断れませんでした。義父も母もいるし何もないだろうと承諾したのですが私が甘かったんです。親の目を盗んで異常なスキンシップが始まりだして……耐えられなくて、義兄が出張で留守の間に家を出たんです」
最後は一言一言、噛み締めて言葉にする。
「専務や君のお母さんは反対しなかったのかい?」
「反対されました。それで、彼が義兄と一緒に住んでいる事を心配して振られそうだと嘘をついたら、すんなり許してくれて…驚きでしたが…義兄のいない間にと思い、急いで住む場所を探し母にも引っ越し先を言わず、その日のうちに引っ越ししました」
「君は、大胆な事をするんだね…」
「はい…敷金礼金保証人無しの格安物件です」
Vとピースサインを部長の前でした私。
「……誰も褒めてないよ。呆れているんだが…」
苦笑する部長に、Vサインを引っ込めると同時に恥ずかしくて頬が赤くなるのがわかった。
「そんなとこじゃ、セキュリティーが甘いだろう⁈後をつけられでもして、それこそ危ないと思わなかったのかな⁈」
確かに…
でも、1秒でも早く義兄から離れたかった。
だから、そこまで考えが回らなかったのだ。
シュンとする私の頭をまた撫で始める部長…
この手が嬉しいと思うのはどうしてだろう?
同じ男なのに義兄とは違う安心感ある。
「まぁ、それはまた引っ越しすればいいだけの話だ。ところで確認したいことがいくつかある」
「……はい、なんですか?」
「君は、義兄に恋愛感情がなく、昼間に見た光景から迷惑しているんだね」
「はい…どんなに断っても諦めてくれません」
「君に彼氏はいないんだよね」
「……はい」
それとこれとどんな関係があるのだろう?
「君が困っているように、実は俺も困っていることがあるんだ」
聞いてくれる?と顔を覗いてくるから
「どんなことですか?」
「会長から縁談の話が出たんだ。次期社長になりたいならお見合いして結婚しろって言われて、そうですかと頷けるわけがない。そこで付き合っている彼女がいると言ってしまったんだ…」
「……」
だから?と首を傾げた。
「どこの誰だと言うことになって、彼女の為に言えないって誤魔化したんだが、しつこくてね」