そのキスで教えてほしい
***


遅くまで崎坂さんのことで頭がいっぱいだった翌日の朝。テレビで見た天気予報は確かに曇りのち晴れだった。


「おはよう」

出社してすぐ、崎坂さんが挨拶をしてきた。
いつも通りの屈託ない、爽やかな笑顔でこちらを見ている崎坂さんに私は「おはようございます」と返した。

あんな場面を見られておいて気まずさなどはないのか、彼は平然としていて、挨拶以外はなにもなく隣のデスクに着いた。

逃げ出した私に昨日のことについてなにか言ってくると思っていたのだけど。
いや、周りに人がいないときに話をするつもり?

私のその推測は当たったみたい。

「これ、部長が午後の会議で使うからまとめておいてって資料」

「はい」

仕事に集中していた私は、崎坂さんからいつもの態度でそれを受け取る。
しかし資料についていた付箋を見て、音でもしそうな勢いで彼に顔を向けた。

『勤務後に話をしよう』

私の視線に気づいた崎坂さんは「頼むよ」と、微笑みながら言った。
それは付箋を知らなければ「資料頼むよ」と聞こえるだろうけど、私には付箋の文字を『強制』したように聞こえる。

「……わかりました」

端から見たらいつもの日常会話だけど、私はどぎまぎしながら付箋をはずした。
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