そのキスで教えてほしい
付箋を見てから私は仕事への集中力を無くしていた。

なにを聞かれるのだろう、なにを言われるのだろう。怒られるか、脅されるか、まさか卑しめられるとか?

こんなにびくびくしたのはここ最近で一番だと思う。

勤務時間が終わるころには、考えすぎて疲れていた。

どうにかして逃れたいという気持ちが強くなって、急ぎの仕事を頼まれないかなと、課長の様子を窺っていたけど残念ながら頼まれることはなかった。

退出していく社員の挨拶がちらほら聞こえてきたとき、隣にいる崎坂さんが立ち上がって、動き出すと同時にわたしのデスクの角を人差し指でトントン、と叩いていった。

――異常じゃないかっていうくらい、脈が速くなったんですが。

一瞬時が止まったかのように固まったけれど、なんとか体を動かしてオフィスを出て、通路を歩く崎坂さんを一定の距離を保った状態で追う。

彼は休憩スペースに入り、わたしがたどり着いた時には自販機の前に立っていた。

「何が飲みたい?」

前髪を揺らした崎坂さんは穏やかな声で訊ねてくる。

「えっと、お茶……」

崎坂さんは小さなお茶のペットボトルを二本買い、一本をわたしに差し出した。

「すみません……ありがとうございます」

「いいよ」
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