そのキスで教えてほしい
崎坂さんにあまり近づきたくなかった。

昨日のことを思い出して意識して、胸の音が凄いことになってしまいそうだから。

「二人で話すのって、仕事以外だとあまりないよな」

「は、はい」

だけど無理らしい。崎坂さんはそばにある長椅子に腰かけると私を見て、隣に座ってと言っているようだった。

困る、本当に困る。
そう思いながらも視線に勝てず、長椅子に歩み寄って崎坂さんの隣に腰を下ろした。

バレていないだろうか。ドキドキしているなんて、気づかれたくない。

平然とできますように。

崎坂さんは隣でペットボトルのキャップを外してお茶を飲んでいる。

私もいただきます、と言ってお茶を飲んだ。

「なんか久しぶりにお茶飲んだなあ」

「そ、そうなんですか?」

「うん。飲むのは水とか酒が多いからな」

「……お酒、好きですか?」

「好きかな。家でも一人で飲んだりするし。あ、今は引っ越しの片付けで忙しくて、ゆっくり晩酌していられないけど」

「引っ越しするんですか?」

「そう。今のマンションは会社からちょっと遠くてさ。近いところに引っ越すんだ、今週末」

「そうなんですか」

「会社遠いと忘れ物した時取りに戻ってると、すごく遅い時間になるんだよな。ほら昨日みたいにさ」

「ああ、そうです……ね……」

緊張しながらも普通に会話ができていることに若干の安心を持った時、その内容が昨日に繋がって私は崎坂さんを見つめた。
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