そのキスで教えてほしい
うわぁ、知っている人だったらどうしよう、気まずい。これ以上見てはいけない。
キス、とか言っていたし。

私はここまで聞いて見ておいて今更だが、こっそりと二人がいる方向とは逆へ歩き出そうとした。――その時。

「久都……」

――え?

その名前に、私は向きを変えようとしていた体の動きを止めてしまった。

まさか、崎坂 久都《さきざか ひさと》じゃないよね、と。
そして視線を二人に戻して固まった。

私は今、見てはいけないものを見てしまっている。

女の人の顎を持ち上げた男。
首を傾けたおかげて明かりが届き、顔が見えた。
瞳を伏せて相手を見つめ、自分の口を軽く開いたその男は――

「っ……!?」

崎坂久都だと思った瞬間、彼の視線が私に向いた。

嘘でしょう、見ているのがバレてしまった。
どうしたらいい? おじぎをするべき?
だってこの人は、同じ課の先輩でデスクが隣なのだから。

まさか崎坂さんだったなんて。

彼は私の三つ上で二十八歳。
毎日仕事上必要な日常会話をする。
穏やかで優しい雰囲気。整った顔立ちとダークブラウンの長めの髪、高身長でスタイルの良い彼は、女性社員から人気がある。
そんな崎坂さんがこんなところで……。
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