そのキスで教えてほしい
余裕ある瞳が私を暴こうとする。

「か、悲しくなんかないですよ。だって崎坂さんは、会社の前で付き合ってもない女の人に――」

「それは鈴沢が見てたから」

「……はい?」

「あの女とは大学が一緒で友人として仲が良いときもあったけれど、好きになられてずっとしつこくされてたから仕方なく頬にキスした。そのとき鈴沢を見ながらした理由は、鈴沢が見つめてくるから挑発したくなったんだ。俺のこと、意識させたかった」

ドクン、と大きく響いた鼓動に思考能力を奪われる。

どう解釈すればいいのかわからない。
なにを思ってそんなことを言うの?

「崎坂さ……」

自分の息が熱を帯びているのがわかった。
再びぐっと顎を持つ手が動き、彼の顔が近づいてくる。

逃げる余裕はあった。
手だって、足だって自由だ。
なのに私は、近づく口許から視線をそらすことができず、じっとそれを待っていた。

もうすぐ触れる。
その瞬間に、身体中が期待をした。

――けど。

「ん、」

ふっと笑った唇はずれて、私の頬へと掠った。
それだけでも敏感に体が震えたけど、満たされない。
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