そのキスで教えてほしい
激しく彼女を責めたてるものを予想していたのに。
きっと女の人もそう思ってかまえていただろうけど、実際にしたのは頬への軽いキスだった。

「これもキス、だよな?」

彼の微笑みは少々憎たらしいと感じる。

キスはキスでもこれじゃない! ……って、なんで私は女の人の気持ちになっているのだろうか。

「……本当、あなたって最後の最後までそうなのね」

切ない声が私の心も締め付ける。
いつのまにか崎坂さんの視線は私ではなく女の人に向けられていて、お願いだから、いつもの崎坂さんの穏やかな雰囲気でいてほしい。

「さようなら」

想いを振り切るように彼に背を向けた女の人は、そのまま振り返らず去っていった。

名前もしらないあの女性に、私はとても同情していた。
好きな相手への気持ちをもうこれで最後と振り切らなくてはならないなんて、とても辛いだろうな。
私がこうして安易に想像しているよりもずっと。

そんなことを考えながら女性の後ろ姿をしっかり見送って、気づく。

「――鈴沢?」

まずい。これは非常に、まずい展開だよね。
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