旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
颯は攻めるようなきっつい視線でこちらを向いたけれど、私がポカンとしているのを見ると表情を呆れの色に変えた。
……確かに。逃亡というには少々派手すぎた気もする。そりゃ結城の優秀なSPなら、三十分もしないで見つけられるだろう。
今さらそんなことに気付いた私はハッとして藤波の方を見やった。間の抜けた私ならともかく、計算高い執事がそんなミスをするとは思えない。
すると彼はシラッと涼しい顔をしたまま前を向いていた。
もしかして藤波……わざと颯に見つかるように画策してた?
ますます彼の考えてることが分からなくなってしまって、私は頭を混乱させる。すると、今度は颯の方から新たな口火を切ってきた。
「藤波と言ったな。どういうつもりか一応話を聞いてやる。言ってみろ」
怒りのせいかいつもよりさらに横柄さを増した口調で言うも、藤波はやっぱり涼しい顔をしたまま言葉を返した。
「どうもこうも。わたくしは二十年前より浅葱家と真奈美さまにお仕えすることを誓った執事ですから。お嬢さまが悲しまれることがあればこの身をもってお助けするだけです」
彼の言葉に嘘はないと思う。藤波は本当に忠誠心の高い執事で、私は幼い頃から何度彼に助けてもらったか分からない。木登りから落ちたときも、大きな犬に追いかけられたときも、おじいと喧嘩して家出したものの途方に暮れて泣きじゃくってたときも。
そして今回も。私を憐れんだ藤波は自分の危険も顧みず助けてくれただけなのだ。
けれど。