旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
「そうか。ならば相応の責任はお前と浅葱家にもとってもらおう。執事の不始末は主人の失態だからな」
怒り心頭であろう颯は容赦ない判断を下す。
逃亡なんて企ててただで済まないことは覚悟していたけれど、彼の一方的な言い草に腹を立て喰ってかかったのは私だった。
「なんなのそれ!? 責任うんぬんの前に言うことはないワケ!?」
そもそも、どうして私がこの結婚から逃げ出そうと思ったのか。颯にはまずそこに気付いて欲しかった。分からないのなら聞いて欲しかった。
閉じ込められて無視されるような毎日に限界を感じた私のこと、少しは可哀そうだったかもって、気付いて欲しかったのに。
結局颯にとっては、私が逃げたところで考えるのは『責任』とか両家の都合だけなんだ。
私のことなのに。ふたりの問題なのに。……『夫婦のこと』とは考えてくれないんだ。
悔しくて悲しくて、さっき大泣きしたばかりだというのにまた涙が滲んでくる。
握り拳をフルフルと震わせた私は、涙目のまま颯をキツく睨みつけて言った。
「私、帰んないから。あんな牢獄みたいな場所、絶対、ぜーったいに帰んない!」
このマンションは結城のSPに包囲されてるだろう。物理的に考えて逃げることはもう不可能だ。けれど、それでも私はこのまま颯の元へ帰るのは何が何でも嫌だった。