旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
「市役所? 海の向こう? どゆこと?」
藤波の言ってることがサッパリ分からずにキョロキョロしてるのは私だけだ。
颯は再び険しい表情で藤波を睨んでいるし、彼は相変わらず飄々としている。どうして今の話でふたりが通じ合っているのか、悔しいぐらいに分からない。
「わたくしは颯さまの敵ではございません。ただ、お嬢さまに忠実に従う執事でございます。――すべては、真奈美お嬢さまのお心のままに」
最後にそう言葉を締めて、藤波は瞳を伏せた。颯は厳しい視線を外さなかったけれど、彼が無反応な態度でいると、やがて表情を変えた。
「……お前じゃないのか。じゃあ……誰なんだ……?」
口元に手を当て、ぽつりと独り言のように呟く。『誰って何が?』と私が聞く前に、藤波がニッコリと微笑んで口を開いた。
「僭越ですが。わたくしはその答えを知っております。もちろん、簡単にお教えする気はさらさらございませんが」
だから、なんでふたりだけでツーカーで話が通じ合ってるワケ? 颯の『誰』が何を指してるのかも分からないのに、その答えを知ってると豪語した藤波。いったいあんたは何なのだ。
そして藤波の言葉を聞いた颯はまーた怒った顔をする。もはやふたりの会話に入れなくなってきた私は、不満そうに唇を尖らせながらわざと音をたてて紅茶を啜った。