旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
「真奈美お嬢さまが浅葱の邸で暮らしていた時のスケジュール帳です」
使い込まれた深みのある革の手帳。それは沢山のふせんや別紙が挟まれ、本来の厚みより倍近く膨らんでいる。
この手帳を使っていた人間が些細なことすらも記録し、こと細かに管理をし、どれだけしっかりと執務を遂行してきたか、一目瞭然のしろものだった。
「この藤波が二十年に渡り、お嬢さまの教育と自由の均等を絶妙のバランスで推し測って作り上げたスケジュールです。参考になさってください」
藤波の言葉の重みに、私の表情も颯の纏っていた雰囲気も変わった。
私を育ててきた藤波がコツコツとしたため、完成させたスケジュール表。中を見なくても分かる。そこにどれだけ私への――主従の間でこれが適した表現かは分からないけれど――愛情が、込められているか。
もしかしたら家族以上の愛情を藤波は私に掛け続けてくれていたのかもしれない。
そして今、二十年間積み上げてきたその愛情を、藤波は颯に託そうとしていた。
その重みを、颯も感じたのだろう。口をキュッと引き結んだ表情からそれは伝わった。
藤波は颯の手にすべてを渡すと、最後に真摯な表情を向けまっすぐに頭を下げた。凛然とした最敬礼の姿を見せながら、彼は紡ぐ。
「どうか真奈美さまが健やかに過ごせますよう、自由をお返しください」