旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
ウエディングドレスの試着中に逃げ出すなんて、颯に大恥をかかせてしまっただろう。謝って簡単に許してもらえることじゃないのは分かっている。
けどそれでも。この政略結婚が取り消せないというのなら――もっと颯に私のことを分かって欲しい。理解して欲しい。
おそるおそる頭を上げると、颯は眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。けれど、その表情は怒っているというより、少し困惑している感じに見える。
頑なだった彼の心が動いてるのかと思い、私は一気に饒舌にまくしたてた。
「仲直りしようよ。ってか、してください! そんで一緒にテニス行こうよ。ゆーちゃん紹介してあげるし。そーだよ、私を外に出すことが不安なら、颯も一緒に出掛ければいいじゃん!」
名案とばかりにポンと手を打つと、目の前の颯が盛大な溜息を吐き出した。
やっぱり駄目だっただろうかと一瞬落胆しかけたけれど。
「……もういい。今回のことは水に流してやる。帰るぞ」
ついに颯の口から寛容の言葉が出た。
しかも彼は藤波が渡した数々の品をつき返すことなく、しっかりと手に持ってソファーから立ち上がったのだ。
「は、颯……」
部屋のドアに向かって歩き出そうとする背中に慌てて呼びかける。それを受け取ったということは、私と藤波の歎願を聞き入れてくれるってことだよね? 譲歩してくれるってことだよね?という期待を込めて。
すると颯は足を止めて、振り向かないまま言った。