旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~

「お前、さっき言ったこと忘れるなよ。もっといい嫁になるよう努力するって」

――歩み寄ってくれた。颯が、あの暴君が初めて私の要求に耳を傾けてくれた!

ぶっきらぼうで分かりにくいけれど、それがプライドエベレストの彼の精いっぱいの歩み寄りなのだと理解した私は、すぐさま小走りでその背に追いついて腕にしがみついた。

「する! する、する! めっちゃ努力するから! 頑張っておめざの紅茶も入れるし、颯の帰りを三つ指ついて待っててあげる!」

あまりにも必死な私を見て、颯が小さく噴き出す。すごくすごく久しぶりに彼の笑顔を見られたことに、私は嬉しくてたまらず満面に微笑み返してしまった。

空気が、変わった気がした。

二十三年間の人生で何度か経験して知っている。ギスギスした雰囲気が一気に晴れて、安心と嬉しさで満ちる私の大好きな瞬間、仲直りの空気だ。

「テニスねえ。付き合ってやってもいいけど、このクラブ平日の昼間だろ。俺、仕事なんですけど」

「大丈夫、ナイトコースもあるから! 仕事終わってからでもオッケー!」

「会社からコートへ直帰しろってか。まあいいけど。そのかわりお前、コートで三つ指ついて待ってろよ。さっき自分で言ったんだからな」

「は!? 室内限定に決まってるでしょ! 臨機応変って言葉知らないの!?」

ようやくいつも通りの会話に戻った私たちを、藤波が目を細めて見ていた。

その顔は慈しみいっぱいの家族みたいな笑顔で、けれど少しだけ切なそうで、でも晴れ晴れとしていて――なんて表現していいか分からないその笑顔を、私はなんとなく一生忘れられないような気がした。 
 
< 115 / 155 >

この作品をシェア

pagetop