旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
***
「お嬢様、最近調子がよろしくないようですが」
「へーき、ほっといて」
あれから三日が経ったものの、私は相変わらず初めての恋に不抜けている。食事も喉を通らず、窓の外を眺めては溜息を吐くばかりだ。
今まで令嬢に生まれ婚約者を勝手に決められ、理不尽さや怒りが湧いたことはあったけれど、こんなに切なく悲しいと思ったことはない。
――あのひとにまた会いたい。会って、お喋りをして、もっと仲良くなって――
そんなささやかだけど心の底から湧きあがる苦しいほどの願いすら叶わないなんて。
浅葱のひとり娘になんか生まれてこなければ良かった。そんな風に自分のおかれた立場に悲嘆し涙を滲ませる私はまるで悲劇のヒロインだ。いつ映画化のオファーがきてもおかしくないぐらいのヒロインだ。
そんな風に主が叶わぬ恋に身を焦がしてるというのに。
「お嬢様、明日は颯さまとのご対面ですよ。初めが肝心です、今日は徹底して肌と髪のお手入れをなさって下さい。結城に嫁ぐのに相応しい美貌と気品をですね……」
藤波ときたら朝からこればっかりである。まったく、こちらの乙女心などこれっぽっちも察する様子がない。