旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
「あーもー分かってるってば。うるさいなあ」
よりによって、恋におちたばかりの身で婚約者とご対面だなんて。なんとも皮肉な話である。
もともとこの結婚は頭のてっぺんから足の先まで100パーセント純粋な政略結婚だ。おじい達が勝手に決めたことで、私の意志も向こうの意思も全く尊重されていない。
だから私はこの二十三年間、本来の婚約者であった長男の方にも会ったことがあるのは一度きりで、それ以外は儀礼的に書かされた暑中見舞いと年賀状くらいしか交流がない。
長男に対してもそんな程度だったのだ。だから急遽婚約者になった次男など尚更交流もないし、ぶっちゃけ顔も知らない。
確か藤波が一応写真を持ってきてたような気がするけれど、おじいや会社の都合で振り回されて怒り心頭だった私はそれを一瞥することもなくゴミ箱にダンクシュートした記憶がある。
今思えば顔ぐらい見ておけば良かった気もするけど、まあどうでもいいや。
どうせ明日には嫌でも顔を合わせるんだし、そもそも顔なんか知っても知らなくても夫婦になるのは変わらないんだから。
「……顔も知らない、会ったこともない男、か」
そんな男と結婚するために自分はこの恋心を永遠に捨てなければいけないのかと思うと、やっぱり切なくて悲しくて、私は藤波のお説教を聞き流しつつ悲劇のヒロインに浸るのであった。