旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
こうなったらホテルの最上階と言えど窓ガラスを割って逃げるしかないと振り返れば、「まさか窓から逃げるほど馬鹿だとは思わないけれど、窓は全部強化硝子で銃弾すら通さない特注品だからな。無駄なことはするなよ」とあっさり釘を刺される。
脱出の手立てを全て封じられた私は逃亡をあきらめ、今度は颯に向かって真正面から食ってかかった。
「ヤだ! 颯とひとつ屋根の下で暮らすなんて絶対にイヤ! 監禁されながらあんたに尽くす毎日なんて、死んだ方がマシ!!」
あまりにも包み隠さず罵ってやったゆえ、てっきり颯も言い返してくるものだと思い私は身構えたけれど――。
「……あれ?」
どうしたことか彼は口を引き結び眉をひそめ、ものすごく不機嫌そうな表情を浮かべたまま、こちらを見やるだけだった。
なんだかその顔は単に怒ってるというよりはどこか悲しげにも見える気がして、私の心にはうっかりと罪悪感が沸いてしまう。
「……し、死んだ方がマシは言い過ぎたかな。えーっと、バナナの皮で滑って転んだ方がマシってことにしとく。……でもやっぱ監禁はヤダ。せめて自由に外出ぐらいさせて」
ちょっぴり反省をしながら向かいのソファに座るけれど、なんとなく気まずくて正面の顔が見られない。視線を窓の外に向けたままでいると、今度は颯がソファから立ち上がった。