旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
そんなこんなで暇に蝕まれてグッタリしていた夜の九時。扉がノックされ「颯さまがお帰りになりました」とメイドの声がすると、私はソファに持たれかけさせていた身体を勢い良く飛び起こさせた。
扉のロックが解除される音がして、「帰ったぞ」の偉そうな声と共に颯が部屋に入って来る。
「死ぬ! 暇過ぎて死ぬ! こんな退屈な生活、一日ともたないんですけど!」
思わず彼に駆け寄って早々に不満をぶちまけてしまった。しかし颯は私に温情を掛けるどころか厳しい顔つきでひと睨みすると、「それが夫に対する同棲一日目の出迎えの態度か」と呆れた声色で言った。
そういえば『帰ってきた俺を労え』とかなんとか言われてたな、と思い出したけれど、あいにく私にそんな余裕はない。
「だって退屈なんだもん」と繰り返し不満を述べれば、颯も颯で「文句の前に言うことはないのか」と一歩も引かない。
このままではつまらない会話が延々と続くだけなので、私は「ちっ」と小さく舌打ちをしてから
「はいはい、分かったわよ。おかえりなさい、颯さん。お仕事おつかれさまでした。これでいい?」
と、全く気持ちの籠もってない労いの言葉を投げつけてやった。
けれど、そんな棒読み状態の労いでも多少は気を良くしたのか、颯は厳しかった表情を少しだけ緩める。そして唐突に私の前に手提げの紙袋を差し出した。