旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
「颯さま、真奈美さま、お食事の用意が整いました」
扉の向こうでそう言ったメイドの声に、私はクッションを掴んだままキョトンと目をしばたかせる。
一方の颯といえば、当然といった顔をしてソファから立ち上がった。
「お前まだ飯食ってないんだろ? いくぞ」
「え? ああ、うん」
確かに私は今日は晩ご飯を食べていない。十八時頃、同じようにメイドが食事を告げに来たけれど、ひとりぼっちの食事など虚しすぎて食べる気もせず断ったのだ。
けど、颯は暇を持て余していた私と違ってこんな時間まで働いてたのだから、食事を済ませていて当然だ。お腹だって空いてるだろうし、時間的に考えて会食や接待があったっておかしくない。
隣の食堂へ向かう颯の後ろについて歩きながら、私は尋ねてみた。
「颯、晩ご飯食べてないの? それともこれって夜食? 太るよ?」
すると彼は私をチラリと振り返ってから答えた。
「お前が食べてないって報告を聞いたから、俺も摂らずに帰ってきてやったんだろうが。本当に手のかかる女だな。飯ぐらい俺に叱られなくてもきちんと食え」
思いっきり呆れた溜息を吐かれてしまったことにはカチンときたけれど、私は今度は反論しなかった。
仕事中でも逐一こちらの行動を報告させてるストーカー気質はさておき、私に合わせて食事を摂ってこなかったなんて、ちょっとは優しいとこあるんじゃん。
そんな感心を抱きながら、前を歩くワイシャツ姿の背中を眺めた。