旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~

「颯の実家って……現実感ないね」

モザイク柄の大理石の床を踏みしめながら呟くと「そう?」と、あっけらかんとした答えが返ってきた。

「亡くなったお婆さまがゴシックとかバロックとか好きだったんだよ。でもあちこち傷んできてるし、そろそろリフォーム時かな。式が終わったらどうせお前もここに住むんだから、その時は好きに内装変えていいぞ」

まるで『テレビのチャンネル変えていいぞ』ぐらいの軽いノリで、颯はこの城の改造権を私に託した。おそろしい。

そんな桁外れなことをサラッと言われると、いっそウン億円かけてこの城の内装を池袋辺りの若者が好みそうなストリートアート風にしてみようかなどと、しょーもない悪巧みが私の頭をよぎる。いや、やんないけどさ。

くだらないことを考えているうちに本日の会場である食堂へと着いた。

「颯さまと真奈美さまのご到着です」

先立って案内してくれていた執事がノックして告げると、観音開きの扉が内側から開かれた。

さすがに少しだけ緊張が走り、颯の肘に添えていた自分の手に無意識に力が籠もる。すると颯は少しだけこちらを振り向き、「大丈夫だよ」と私にしか聞こえない小さな声で呟いた。

彼の実に紳士的で優しいふるまいにまたもやときめいてしまう。今日の颯は終始王子さまモードで嬉しいやら心臓に良くないやら。

けれど、こんなときに自分の弱さを曝け出したみたいで恥ずかしくなった私は、「分かってる」と強気に返すと顔を上げてまっすぐ部屋の奥を見据えた。
 
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