旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
着替え終わってリビングに戻ると、藤波がテーブルに紅茶と焼き菓子を用意して待っててくれた。
ソファーに座り淹れたての紅茶を一口飲むと、気持ちがホッと和む。
「やっぱ藤波の淹れてくれたお茶は美味しいね。私、一番これが好き」
「恐縮です」
結城のホテルで暮らすようになってから毎日のようにメイドが高級なお茶を淹れてくれたけれど、やっぱり飲みなれた藤波のお茶が一番美味しい。これって『おふくろの味』ってやつかもしれない。
そんなことをしみじみ思っていると、なんだか急に懐かしさが込み上げてきて、気持ちが無防備になっていってしまった。
「……藤波。私、あんなに頑張ってきたのに結城の嫁が務まらなかったよ。結局逃げ出して来ちゃった。……ごめんね」
「……どうして謝られるんです?」
珍しく私が湿っぽい声を出しても、藤波は向かいの席に座りながら、いつもと変わらない様子で淡々と答える。
「だって、立派に結城に嫁げるように育ててくれたのは藤波じゃない。子供の頃からずっと付きっきりで沢山のこと教えてくれて。なのに全部無駄になっちゃった。きっとおじいもお父さんもガッカリするね。本当にごめん」