ご主人さまの冷酷彼氏


……もし。


もしおれが人間だったら、猛烈アピールしてんのになぁ。


好き好き押しまくって、タカシなんか蹴散らして、彼氏の座についてやるのに。



そしたらあかねのこと、すっげ、大事にするのに。



タカシなんかとは違ってさ。あかねに手ぇ振られたら、ぶんっぶん、ちぎれんばかりに振りかえすし。


廊下ばったり会おうもんなら、ソッコーでおれから声かけるし。ぜってー無視なんかしねえのに……。



……なんか、切ない気分になってきちまったぜ。



おれが感傷にひたっているあいだに、あかねたちの作業は、順調に進んでいく。



粉をはかる。卵を混ぜる。バターを塗る。



気がつくと、あたりには、甘くて香ばしいにおいがただよっていた。



開かれるオーブン。同時に、室内から、大きな歓声が上がる。



「うっわあ…!!いい焼き色!!」

「ちゃんとふくらんだねーっ!!」



つやつや、ふっくらしたカップケーキが、ひとつ、ふたつ。次々、机に並べられていく。



にこにこしながら、そのカップケーキをながめるあかね。



その姿を見て、ジーンと、胸を熱くした……そのときだ。


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