籠のなかの小鳥は
「せっかくお前が来ているのだ。氷室を開けさせよう」


蘇芳の言葉に、思わずごくんとのどが鳴る。

氷室とは、冬のあいだに川や湖にはった氷を切り出して、貯蔵してある蔵だ。
氷室って、ミュージシャンの名前じゃなかったんだと知った、十六歳の夏である。

電気のないこの国では、冷凍庫と冷蔵庫も役割を果たしている。

とはいえ、新しく作り出せるわけではないので、夏場の氷は大変な貴重品だ。

氷室を開けるといえば、冷たい飲み物や氷菓が供されるということで、のどが鳴るほどのごちそうなのである。


がしかし、と小鳥はぐっとこらえる。

宮様、と控えめに言う。
「病み上がりに体を冷やしてはいけないと、わたしの亡くなった祖母は申しておりました」


「夏は俺の季節だ。いらん心配をするな」



そうだった。
蘇芳が夏を “俺の季節” と呼ぶのはあながち誇張ではない。

四獣には、それぞれ意味する色と季節がある。
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