先生、俺を見て(仮)
◇
――ピンポーン
普段なら絶対になることはない時間になったインターホンに、颯は顔をしかめた。
流していた音楽をとめ、読んでいた本をぱたりと閉じる。
インターホンのモニターには何も映っていない。
という事は、玄関前に人がいるという事。
「誰だよ...こんな時間に」
颯は迷惑そうに髪をかき上げながら、玄関まで行き、のぞき穴を見た。
そこには見覚えのある顔が。
ガチャ
「...こんな時間に何なんすか、先生」
「えへ、来ちゃった」
無理やりかん満載のてへぺろに、颯はドン引き。蛍も慣れないテンションに(やりすぎたか...)と冷汗をかいたのだった。
◇
で
「何でこんなことになってるわけ」
颯は今、蛍の部屋に招かれ、ぐつぐつ煮えこむ鍋の前に座っていた。
「ほらほら、颯君もぼーっとしてないで卵割ってよ」
招いた側の蛍はパタパタと忙しなく準備をしている。
「今日はすっき焼き♪おっいしいお肉♪」
そんな鼻歌を歌いながら、箸や飲み物を準備する蛍を颯を見つめた。
ご飯まだでしょ。と突然やって来た蛍。
そのまま連れられ、テーブルの前に案内された。
で、この状態なのだ。
目の前でぐつぐつ音を立てる鍋からは、すき焼きのいいにおいがする。
「...先生、本当に料理するんすね」
「まあねー普段はこんな鍋なんてしないんだけど、久しぶりに時間あったし、お肉やすかったし♪日頃のご褒美ー」
そして蛍が席につくと、二人の晩御飯が始まった。
「いただきまーす」
「...いただきます」
それを合図に蛍は鍋の中の具に早速箸を伸ばす。
「ほら遠慮しないで。あ、私がとってやろうか?」
「...いいっす、自分でやるんで」
おずおずとしながらも颯も具をとる。
とき卵に絡ませ、パクリと一口。
「......うまい」
久しく味わってない、手料理の味というものに思わずその言葉が出た。
「でしょー鍋は絶対失敗しないんだ」
ニコニコ笑顔でそう答える蛍を見ると、つられて颯も小さく笑ってしまう。
二人はその後も会話を交わしながらすき焼きを楽しんだのだった。