先生、俺を見て(仮)
(高校二年生...男子かあ)
蛍はあまり男子生徒に教えることが得意ではない。
なにを考えているか分からないし、元々男子と話すこと自体が経験として少ないから。
実際に今担当している生徒も全員女の子。
それなのにどうして蛍がその彼を担当することになったかというと
単純に、この時間帯に高校理系科目を教えることが出来る先生が蛍以外いなかったのだ。
不本意ながらそう言うわけで。
しかし頼まれたからにはしっかりしなければ。
そう心の中で自分に言いつけ、気合を入れるために頬を何度か掌でぱんぱんと叩く。
そしてもうすぐやってくるであろう男子生徒の名前を確認しようとしたとき。
蛍の頭上に大きな影が落ちた。
「え、...」
ぱっと顔を上げると、隣に真っ黒な学ランに身を包んだ男子がたっているではないか。
(気づかなかった...)
音もたてず突然現れた彼に驚く。
自分が座っているからか、その彼の身長が異様なほど高く感じた。
教室の照明がちょうど逆光となり彼の表情までは確認できない。
だがおそらく新しく担当する生徒であるという事だけは分かった。
「あ、つ次の授業の子よね、ここ座って」
緊張しながらも、自分の隣の席の椅子が引いてやると、その男子は何を言うでもなく引かれた椅子にどかっと腰を下ろした。