才川夫妻の恋愛事情
お陰でその後のグループワークはちっとも身が入らなくて。『どうすれば100円のビニール傘が売れるか』。与えられたお題は面白いと思っていたのに、頭がうまく働かない。隣で彼女が意見を言ったり、笑ったりするたびに胸がざわざわした。
元来俺は他人から〝何を考えているのかわかりにくい〟と言われるタイプだ。愛想よくもできるし冗談も言える。だから取り立てて人付き合いに苦労した記憶はないけれど、付き合いの長い友達からも〝本当のところは何を思っているのかわからない〟と言われがちで。
だから、珍しく何もかも見透かされているような感覚に落ち着かなかった。胸がざわざわする理由はそれだけだ。まさか会社説明会で、こんなにペースを狂わされるとは思わなかった。
そんなことばかり考えていたらグループワークの時間が終わった。六人で一つの回答を導き出したはずなのに、俺は、どうやって100円のビニール傘を売ることになったのかさっぱり記憶にない。
彼女とはもしかしたら、この後に続く選考でまた顔を合せることがあるかもしれない。そう思いながら、特に連絡先を交換することもせず「お疲れ」とだけ声をかけて席を立つ。みつきは一瞬じっと俺の顔を見て「お疲れ様でした」と言った。
そんな出会いだった。
そこで終わっていれば、まぁまぁありふれた話。