才川夫妻の恋愛事情



訊いてからすぐ後悔が始まった。トレーナーが、何を相談されたかと思えば恋愛相談って。色ボケてるなって松原さんに幻滅されたくない。

撤回しようと、恐る恐る隣の松原さんの表情を確認すると、窓の外の外灯に照らされた顔が真剣に考え込んでいた。



「……」



あれ、もしかして聴いてなかった……?

それならそれでいいけど、なんだか……と思って正面に向き直ったとき、彼女が口を開いた。



「うーん……。まず本当にパートナーがいるかどうかは確かめるでしょうね。諦めるかどうかはさておき、既婚者はさすがにややこしいから遠慮したいかなとも思うし……」

「……ですよね」



ちゃんと聴いて真面目に考えていてくれていたことに安堵して、その答えのまともさに少しだけがっかりする。欲しかったのは自分では辿りつけない回答。ブレイクスルーのためのちょっとぶっとんでるくらいの突破口。いや、答えてもらっておいてですけど。先輩に何を求めてるのってかんじですけど。私は私のトレーナーのことを、人間だけど、すごい人間だと思っているから。

そんな不遜な感想と勝手な期待に気付いたのか、松原さんは余裕のある笑顔で私に笑いかけた。



「それでもね、野波。私は結構、告白推進派なのよ」


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