才川夫妻の恋愛事情
「何か言いたげですね松原さん」
「別に。何もないわよ」
「野波さん借りていきます」
「どうぞ。良いモノ食べさせてよね」
「了解です」
お先です、と続けて言って才川さんはオフィスを出て行く。私も、お先に失礼します、と言って彼の後を追いかけた。そのとき才川さんの島のボードをちらりと見る。花村さんの欄は〝退社〟になっていた。
さてさて。
野波千景、最後の聴き取り調査です。
才川さんが連れてきてくれたのは、会社からタクシーで十分ほど走ったところにある和創作ダイニングだった。社風なのか、入社以来いろんな先輩が日替わりレベルでいろんなお店に連れていってくれたけれど、だいたい会社から徒歩圏内でタクシー移動は初めてだ。加えて、こんなちょっとおしゃれなかんじなのも初めてだ。いつも〝絶品焼肉!〟とか〝名物餃子!〟とかだったから。
ぽわんとした暖色の照明。高い天井。和風モダンな店内装飾。そして通されたのは、天井は高いのに取られたスペースはこじんまりとした二人掛けの個室。
……大衆居酒屋とかでよかったのに……!