才川夫妻の恋愛事情
「……飲みに? 俺と?」
「はい」
「サシで?」
「サシでお願いします!」
思わず両手で拳を握って叫んでいた。緊張に堪えられなくなってきて、思うよりも力の入った声が出てしまって恥ずかしくなる。野波千景、公表していませんが大学時代は女子ハンドボール部キャプテンです。
なぜか出してしまった体育会系のノリに一人死にそうになっていると、才川さんは何かを見極めるようにじっと私の顔を見てから、言った。
「了解。じゃあ、七時頃に出るか」
「はい、お願いします!」
やった!
素直に心が喜んだ。自分の用件を考えると決して浮かれられるような飲みじゃないのに、それでも。嬉しくなってしまっている。
くるりと自分のデスクに戻って席につく。隣でメールを打つ松原さんは、今の一連の流れが聴こえていただろうに何も言ってこなかった。その態度にも少し安心した。一段落してからのことは任せなさいと言ってくれたから。だから私は一段落するところまで、好きなようにやろう。
業務をこなして、七時。帰り支度を整えていると、デスクに鞄を持った才川さんがやってきた。
「出れそう?」
「あ、はい」
ただその返事をするだけで、自分の声が緊張してしまっている気がする。これから二人で話すと言うのに、こんなんで大丈夫だろうか……。不安になっていると、隣の席の松原さんが手元の書類から顔を上げて私たちを見た。