才川夫妻の恋愛事情
金曜日の朝。今日も直行だから、とベッドの中で粘る才川くんにため息をつきながら、私は今日あたりそろそろかな、なんて思っていた。
この異動には、最初から無理があったと思う。
異動する前に私が把握していた限り、ここまで深夜残業が続くような案件は入っていなかった。
それから松原さんが、化粧室で顔を合せたときに言っていた。
〝あんたの夫、立ちいかなくなってきてるわよ〟
ついでに言うと、野波さんはわざわざ私のデスクまでやってきた。
〝才川さん、すぐ印鑑なくすし書類の場所全然わかってないですよ!〟
私が彼の溺愛に踊らされていた四年間の会社生活で、私もすっかり彼をダメにしていたようだ。夜に松原さんのファイルを口実に覗きにいった才川くんのデスクは、散々な有様になっていた。もしかしたら? と思って少し待ってしまったけれど、彼が自分から音を上げるわけがない。それに私ももう、彼にちゃんと帰ってきて、ゆっくり眠ってほしかった。
昼過ぎ。直行した先から才川くんが戻ってきたのを遠目に確認して、二課の島へと歩いていく。
雪崩を起こしかけているデスクを前に、目一杯椅子の背もたれに体重をかけて胸を反らす才川くん。げんなりしている彼の顔を、そっと隣に立って覗きこんだ。
「……なに? 三課の花村さん」
「補佐に戻ってあげてもいいですよ」
「えらく上からだな」