才川夫妻の恋愛事情
その顔は〝決定権なんてないくせに〟とちょっと馬鹿にしたように鼻で笑っていた。私はその鼻を挫くようにこそっと耳打ちする。
「……昨日、局長に訊かれたんです。私を、補佐に戻したほうがいいと思う? って」
「は」
「意外と私の一存ですよ? 千秋くん」
――あ、悔しそうな顔。
才川くんはじっと私の顔を見て。それから渋々、言った。
「……じゃあ、戻ってきてください」
「喜んで」
また、彼の新しい顔を見た。
格好いい顔とは言えなかったけれどしっかりときめいてしまって、まだどこまででも好きになっていけそうだなぁと思った。
恋をしています。
「……覚えてろよ今晩」
そう言いながらデスクに積み上がった書類を片付けていく才川くんの横で、同じように書類を振り分けながら彼の言葉をスルーした。
今日だけは私が勝つ日だと決めていたので。
「でもそろそろ、後任できる人つくらなきゃですね」
「なんで?」
戻ってくるなら別に必要ないだろ、と不思議そうに言った彼は、やっぱり気付いていない。あぁ、やっと言えるなぁーと思いながら、私はまだいつもの調子を守る。