溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜
 でも、と花音はうつむく。

 でも、拓海との心地いい関係を壊したくなくて、なにも追求せずに流した私が一番の卑怯者なんだとわかってた。

「ごめんね、拓海」

 そう言うと、拓海はちょっとの間のあと、少しいつもの口調に戻り、

「無理やりキスして、謝られたということは、もう一度、してもいいと言うことだろうか?」
と言ってくる。

 莫迦、とうつむいたまま、濡れたブラシで、シャツをまくっている拓海の腕を叩いた。

「花音……泣くなよ」
と拓海が頭を撫でてくれる。

「明日も口きいてくれるか?」

 ささやくようにそう訊いてきた。

「あんたその台詞、前にも言った」
と上目遣いに睨んで言うと、

「はは……進歩ねえな」
と拓海は自嘲気味に笑う。

「でも、他のことも進歩ねえよ」

「え?」

「言ったろう?
 俺は、今でもお前が好きだ」

 そう言い、真摯に見つめてくる。

「お前、嫌なことも呑み込んでも、俺と居たいと思ったんだろ?

 本当は俺のことが好きなんじゃないのか?」

 へ?

「ずっと側に居たから、気づかないだけなのかもしれないぞ。

 お前は、突然、現れた王子様に舞い上がってるだけなんだ。

 それに……」
とそこで、拓海は言葉を止める。

「あー、これ言ったら、俺も卑怯者な感じがするからな」
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